不確実性が高い社会に必要とされるT型人材とその育成方法とは

不確実性が高い時代に必要なT型人材

T(ティー)型人材という人材定義についてご存知でしょうか?

T型人材とは、不確実性が極めて高いVUCAと呼ばれる現代のビジネス環境において、重要な役割を果たす特定のスキルセットと特性を持つ人々を指します。
それだけを聞くと、いかにも特別で一握りの人材のことを指すように思われるかもしれませんが、実はそんなことはありません。誰にでもT型人材になれると僕は思っています。

ここではそもそもT型人材ってなんぞや?という説明に加えて、どうしたらT型人材になれるのか、あるいはどのようにT型人材を育成できるのかについても触れていきたいと思います。

また一方で、そうはいってもT型人材にも課題はあります。その課題と対応策についてもしっかり解説しますね。

目次

T型人材の特徴

「T型人材」は、その名前が示す通り、Tの字の形状を特徴としています。これは、一つの専門分野に深い知識とスキルを持ち(これがTの字の縦棒に相当)、同時に他の多くの分野に広範囲にわたる知識を持つ(これがTの字の横棒に相当)人材を指します。

縦軸に専門性、横軸に汎用スキルを備えたT型人材

専門知識(縦棒)=特定領域のスペシャリスト

T型人材の特徴の一つは、一つの分野に深い専門知識を持つことです。これは、その分野における問題を解決したり、新しいアイデアを生み出したりする能力を意味します。

「この分野/においては〇〇さんの右に出るものはいない」ひいては「XXといえば〇〇さん」というブランドが確立された状態ですね。なお、この専門知識はその人が活躍する分野での信頼性と信用性を確立するための基盤となります。

広範な知識(横棒)=リベラルアーツ的アプローチ

一方、T型人材は、他の多くの分野についても横断的かつ一定の知識を持っています。これにより、異なる背景や専門分野を持つ人々と効果的にコミュニケーションを取り、協力して問題を解決することが可能になります。

近しい考えにリベラルアーツがありますね。
広範な知識と多面的な視点は、新しい視点やアイデアを導入し、創造性と革新性を促進するのにも役立ちます。

T型人材の重要性

現代のビジネス環境では、T型人材はますます重要になっています。これは、技術の進歩とグローバル化により、ビジネスや産業がますます複雑になり、異なる分野や専門知識が交差する場面が増えているからです。T型人材は、このような状況で、自分の専門分野だけでなく、他の分野との接点を理解し、異なる視点を統合して価値を創出する能力を持っています。

つまり「広く浅くもダメ、専門性だけでもダメ」です。

例えばですが、「保育園の待機児童問題」という課題に対して、イシューを整理してみると非常に複雑な背景が絡み合っていることがわかります。

  • 保育園の数が足りない。
  • 保育士の就業人口が足りない。
  • 都市部への人口集中が加速し保育園がひっ迫している。
  • 出産して早期の共働き世帯が増加し保育園需要も増加している。

これを解決するには、保育施設と育児領域に精通しているだけで十分でしょうか?おそらく不十分です。
少し考えただけでも以下のような分野を横断的に捉え、動くことが必要になります。

  • 保育園がビジネスとして儲かるインセンティブの設計
  • 保育士の給与や労働環境の改善
  • 地方創生文脈の経験や知見
  • 女性と男性の育休を交互に取る仕組みなど働き方改革の推進
  • ベビーシッターなど育児産業の改革
  • 法改正や行政へのロビイング

あくまでも一例ですが上記のように、雇用、社会制度、法律といった多面的な視点を持つ必要があります。これがもし、短絡的に「認可保育園を一気に増やせ」と号令をかけたらどうなるでしょうか。
保育士さんが足りていない側面を補うためにサービス品質を犠牲にした運営をせざるを得なく、問題がいたるところで発生し、ブラック職業というレッテルを張られてしまい、ますます保育士人口が減るという悪循環が想像できます。

以上のように、T型人材は、深い専門知識と広範な知識をバランス良く持つことで、複雑で多様なビジネス環境で活躍する能力を持つ人材です。そのため、企業や組織は、T型人材を育成し、活用することで、競争力を強化し、持続的な成長を達成することが可能となります。
また、個々の人材にとっても、T型人材としての能力を持つことは、自身のキャリアを豊かで充実したものにするための重要な要素となります。

T型人材の事例

具体的にどんな人のことを指すのか、イメージがあった方がいいと思いますのでここではT型人材の事例を2つほど紹介したいと思います。

1つ目は人物についてで、慶應義塾大学SFC 環境情報学部 教授の安宅 和人さんについてです。


以下のリンクプロフィールには記載がありませんが、安宅さんは脳神経科学のPh.D.という極めて専門的な分野を極めた方です。さらにデータサイエンスの世界における第一人者でもあります。

そうした専門性を持ちながらも、マッキンゼーでのコンサルタントやZホールディングスでのシニアストラテジストとして広範な問題解決に取り組まれています。

著書であるシン・ニホンを読むとわかりますが、理論先行型によく見られる中身のない内容ではなく、データに基づいた超分析的で整理された、根拠を伴う内容に驚きます。幅広く活動されているけど、この方の専門的な強みはデータなんだなということを実感できます。

2つ目は考え方で、堀江貴文(ホリエモン)さんが語る100万分の1の人材になる方法についてです。

堀江さん著書の多動力の中にありますが、1つの分野で100万人に1人の存在を目指すことは、ごく限られた才能を持った人にしか成しえない次元の難しさであるが、100人に1人の専門性であれば一定の時間をかければ誰にも可能とのことです。

仮に100人に1人の分野を3つ作ることができたらどうでしょうか。
1/100×1/100×1/100で100万人に1人の存在になれるというわけです。厳密にはT型人材とは異なりますが、専門分野を複数作ることで点が線になり線が面になり、面で課題を捉えたときに越境したアプローチが可能になるという点では近しい考えではないでしょうか。

さて、他にもたくさんの事例はありますが、一方でこれほど理想的な人材モデルが分かっているのに、なぜ普及浸透されていないのでしょうか。この課題を避けて通ることはできませんので、このあとしっかり解説していきたいと思います。

T型人材輩出の課題点とは

T型人材を育成するうえで、一番のボトルネックは個人の自己成長意欲にかなり依存しているという点です。意識の高いビジネスリーダーが横棒(=リベラルアーツ)の部分を広げていくことを自発的にしているのです。

しかも自発的にといっても簡単なことではなくハードな自己投資を経てようやく横断的な視点・視界に立てるわけです。

一方、企業の立場としても当然T型人材を育成したいわけですが、なかなかうまくいかない側面もあります。

多くの場合、特定の部署の中で5年10年も経験するとその分やでの専門性は身につき、そこから先マネージャー的な役割にステップアップしますが、あるときから急に「マネージャーをやれ、経営目線だ」と言われても難しいわけです。十分な研修も無いなかで、しかもプレイングをしながらのマネジメントが実態はほとんどです。

専門性を積み上げた人が急にマネジメントなどのT型人材的役割を担ってもうまくいかない

百歩譲ってマネージャーとして機能している人材がいたとして、T型人材と言えるでしょうか。企業の中でのマネジメントに求められる期待値はかなり限定的でリベラルアーツとは程遠い部分があります。いいところ育成や業績管理のミッションが加わっただけにすぎません。

そのため、企業ではさらなる管理職育成のためにいろいろな部署を移動させて経験させるわけです。結果的に中途半端な成熟度で未知の部署のマネジメントをさせられるということになります。

こうして「プレイングは出来るがマネジメントが出来ないマネージャー」と「中身のことはわからない管理業務だけのマネージャー」に2極化して量産されてしまうのです。

T型人材のキモになるポイント

こうした課題に対して、有効なのがジョブローテーションと言われていますが、大事なのはその時期です。専門性が身に付き、成熟した状態で初めてジョブローテーションをしてもあまりいい結果にはならないことが多いです。

社会人初期の段階でジョブローテーションをすることをお勧めします。

例えば、新卒のように何でもスポンジのように吸収する時期にジョブローテーションをすることで、横断的視点への耐性やしなやかさが身に付きます。その状態で専門性を磨いていくと、横軸を広げていくタイミングでの躓きが圧倒的に無くなります。

ジョブローテーションなどをしたうえで専門性を磨くことでT型人材を育成することができる

なお、これを実施するには本人と会社の双方に覚悟が必要です。

本人にとっては、スタートダッシュを切りたい社会人初期段階に専門性を身に付けられないもどかしさをこらえる必要がありますし、会社にとっては戦力化して黒字社員になるタイミングが遅れるため、投資だととらえる必要があります。

そういった課題さえクリアできれば、双方にとって間違いなく大きなリターンが得られる仕組みだと考えています。

具体的にどれぐらいの期間、どんなことを①で経験させるのか、②の期間はどれぐらいなのか、③では何をさせるのか、についてはぜひお問い合わせください。人材育成や組織開発についてお力添えできることがあれば幸いです。

【参考情報】さいごに
T型人材の無双っぷりいかがでしたか?こういった人材の定義を聞くと割と最近の考えなのかなと思いますよね。
実はかなり前に「T型人材」の定義が提唱されていたことに自分も驚きました。最初は1970年代にコンサルティングファームのマッキンゼーが使ったと言われています。コンサルタントやパートナーの採用や育成プログラム、人材モデルとして使われていたようです。
その後、ビジネス雑誌や企業経営者がT型人材のアプローチを支持し始め、HR界隈では一定の知名度を持つようになりました。
また、T型人材から派生して、I型人材・π型人材・H型人材といった定義も出てきましたが〇型人材が何個出てこようが枝葉にすぎず、本質的には同じことだと理解しています。
WorkInsightではトレンドワードも多く取り上げて発信しておりますが、大事なことは流行りに飛びつくことではなく本質を抑えることだと考えています。

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