新入社員を迎える季節。多くの企業で新入社員研修が実施され、社会人としての第一歩を踏み出す若者たちに向けた熱いメッセージが語られます。その中で、人材育成の担当者や現場のマネジメント層が必ずと言っていいほど取り上げる定番のテーマが「学生と社会人の違い」です。
読者の皆様も、ご自身が新卒の時、あるいは研修に登壇する際、「お金を払う側から貰う側になる」という話を一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。
しかし、この定番とも言える説明だけで、本当に新入社員の心に火をつけ、自律的な行動変容を促すことができるのでしょうか。
本記事では、研修会社であるコーチングフォワードの視点から、学生と社会人の「本当の違い」の本質に迫ります。そして、人材育成の現場で即実践できる「Will Can Must」のフレームワークを用いた、画期的かつ本質的なアプローチをご紹介します。
従来の新入社員研修が抱えるジレンマと「知識の引き出し」
「学生と社会人の違いの本当の違いとは何でしょうか?」
新卒の時、学生と社会人の違いについて「お金を貰う側になる」という話を必ず聞きます。
確かにその通りですし、非常に重要な事実です。しかし、お金の話は頭では理解できるものの、当事者意識が生まれにくいんですよね。まだ一度も給与明細を手にしたことがなく、自分の日々の仕事がどのように会社の利益や社会への貢献に直結しているのかが見えていない状態では、実感を伴うのが難しいのは当然のことと言えます。
あるいは、「責任が伴うようになる」「嫌いな人とも仕事をしなければならない」「自分で考える」「自由な時間ではなく、限られた時間の中でやる」といった言葉もよく使われます。
だいたい、新入社員研修の中でこのような話をして、新卒もわかった気になって、終わります。
もちろんその場では、真剣な表情で頷き、メモを取り、深く理解します。でもきっと次の日には忘れるでしょう。新卒もバカではないので考えれば当然の話だからこそ、単なる一般常識として処理されてしまうのです。
ここで、人材育成における最大の課題に直面します。
大事なことは、その理解が行動にどう表れるかだということです。引き出しの中にしまわれた知識だけでは何も変わりません。つまり学生から何も変わらないのと同じ状態のまま、現場へと配属されていくことになります。
結局、現場でのOJT(On-the-Job Training)経験を通して、失敗したり、壁にぶつかったりしながら、身体で覚えることになります。
だとしたら研修とは何のためにあるのでしょうか?
ただ知識を伝えるだけなら、マニュアルや動画を見せれば済むはずです。ここで、研修の中で学生と社会人の違いの本質を理解してもらい、ただのインプットにとどまらず行動変容まで促す考え方を共有します。
マネジメントの共通言語「Will Can Must」とは?
その鍵となるのが、人材育成やキャリア開発の分野で広く活用されている「Will Can Must」というフレームワークです。これは株式会社リクルートが発祥とされ、現在では多くの企業のマネジメントや目標設定において導入されている強力なツールです。
まずは、この3つの要素について改めて詳しく整理してみましょう。
- Will(やりたいこと・意志・価値観)本人が仕事を通じて成し遂げたいこと、将来の夢、情熱を注げること、あるいは大切にしている価値観や志向性を指します。「どんなキャリアを歩みたいか」「誰にどんな価値を届けたいか」「どんな働き方が理想か」という、その人の内発的な動機です。Willは自己を深く掘り下げることで明確になります。
- Can(できること・能力・強み)本人が現在持っているスキル、知識、経験、そして得意なことや強みのことです。資格や専門知識といったハードスキルだけでなく、「初対面の人とすぐ打ち解けられる」「データから課題を見つけ出すのが得意」「コツコツと正確な作業ができる」といったソフトスキルも含まれます。
- Must(求められる役割・期待・義務)会社や組織、上司、あるいは顧客から「やってほしい」と期待されている役割や目標、果たすべき責任のことです。これは自分自身の内側から湧き出るものではなく、他者や環境からのニーズによって規定されるものです。
優れたマネジメントやコーチングの現場では、この「Will」「Can」「Must」の3つの円を描き、それが重なり合う領域を見つけ出すことを目指します。この3つが重なる部分こそが、従業員が最もモチベーション高く働き、最大のパフォーマンスを発揮できる「キャリアの最適領域」だと考えられているのです。
学生と社会人の本当の違いは「構造変化」にある
では、この「Will Can Must」のフレームワークを用いて、学生と社会人の違いをどう紐解くのでしょうか。
本質的には、学生時代は「CanとWillの世界」しかなかった状態から、「Must」が加わることにより、会社からの期待に応えることが大きな違いなのです。

学生時代を思い返してみてください。自分が「やりたいこと(Will)」を見つけ、自分の「できること(Can)」の範囲内で時間割を組み、アルバイトを選び、サークル活動を楽しんでいれば、それで世界は完結していました。やりたくない授業は受けないという選択も可能でしたし、自分の意思と能力だけで居心地の良い環境を作ることができました。
しかし、社会人になると劇的なパラダイムシフトが起こります。それが「Must」の出現です。
Mustとは会社からの期待です。新卒の〇〇さんに対してどのようなことを期待しているのか。どうなってほしいのか。そこには、チームの業績への貢献、プロフェッショナルとしての成長など、期待値が必ずあります。これを「役割期待」といいます。
この役割期待に対して、自分のCANを拡大して答えることこそが学生と社会人の違いなのです。
会社から求められるMustに対して、「今の自分にはCan(能力)が足りないからできない」と諦めるのではなく、日々の業務や自己研鑽を通じてCanを広げ、Mustに応えられるように成長していく。このダイナミズムこそがプロフェッショナルとしての第一歩です。
お金をもらう側になることや責任感が生まれるのは、この構造変化のあくまで結果論に過ぎません。そもそも構造として変わるところをおさえるとよいでしょう。
「Will Can Must」の全体像を共通言語化する絶大なメリット
このWillCanMustの全体像さえ共通言語化しておけば、他の場面においても話がしやすいという圧倒的なメリットがあります。同じフレームワークがあることで、今どこの話をしているかがわかるからです。
1. コーチングや1on1での「壁打ち」が機能する
例えば、面談でこの先どうなりたいかを聞くときは、Willの部分を話していると、お互いにわかります。
さらに仮に、Willが現時点で漠然としており、言語化できないような若手がいたとしたら、「じゃあMustをまずは目標にして、その中でWillになるものが出てくるか、一緒に探していこう」という壁打ちもできます。目の前の役割に全力で取り組む中で、「この作業のここが面白い」といった小さなWillの種を発見させるコーチングのアプローチです。
2. アクションプランの可視化と軌道修正
そして、成長するための行動計画やアクションプランも、それがMustに向けての成長(会社から求められているスキルアップ)なのか、Willに向けての成長(自分の将来の夢のための自己啓発)なのか、両方なのか、可視化しながら軌道修正できます。意味付けが明確になることで、行動に対する納得感が段違いに高まります。
3. キャリアの迷子(ジョブホッパー)を防ぐ
WillとMustを把握しておけば、本人の立場であれば、現在の自分の状態と会社からの期待との乖離が可視化できるので、場合によっては転職して合わせに行くというポジティブな決断ができます。
現職がなんとなく嫌で、もっと条件のいいところに転職をする。といった、目的のない転職を繰り返して気が付いたらジョブホッパーになっていたなんてことも避けられます。なぜなら、WillとMustの構造を知っているから、転職先で、その交差点を自分の言葉で見つけられるからです。
4. マネジメント層の早期対応
一方、上司にとっても、日々の対話の中でメンバーのWillとMustに乖離があるなと感じたら、役割の変化や異動などでうまく、解決できたかもしれない問題に気づけます。早期に察知することが出来るようになるため、優秀な人材の予期せぬ離職を防ぐ強力なリスクマネジメントにも繋がります。
AI時代に求められる人材育成とコーチングの力
私たちが人材育成においてこの「Will Can Must」による本質的な理解を強調するのには、明確な理由があります。それは、現代が予測不能で変化の激しい「AI時代」だからです。
マニュアル化された定型業務は、今後ますますAIやテクノロジーに置き換わっていくでしょう。かつてのように「言われた通りにMustをこなすだけ」の指示待ち人材は、企業に新たな価値をもたらすことが難しくなっています。
これからの時代に求められるのは、会社から与えられた「Must」の背景や目的を自ら考え、そこに自分自身の「Will」を掛け合わせ、テクノロジーを柔軟に活用しながら「Can」を非連続に拡大していける「自律型人材」です。
そして、そのような人材を育成するためには、従来の「一方的に教え込む(ティーチング)」マネジメントから、「問いかけによって引き出し、伴走する(コーチング)」アプローチへの転換が不可欠です。新入社員の可能性を信じ、彼らの中に眠るWillを言語化させ、会社のMustとの結びつきを自ら発見させる。それこそが、現代のマネージャーやメンターに求められる高度な人材育成スキルなのです。
新卒研修で、学生と社会人の違いを伝える際にはぜひこの内容をお話してみてください。単なる精神論ではないロジカルな構造理解が、若手社員の心に深く刺さり、確実に行動変容のスイッチを押すはずです。
おわりに
知識として知っていることと、行動に移せることは全く異なります。引き出しの中にしまわれたままの研修ではなく、現場に戻った翌日から「今の自分のCanをどう広げれば、会社のMustに応えられるだろうか?」と自問自答できる新入社員を増やすことこそが、真の研修の価値です。
コーチングフォワードでは、新入社員研修・内定者研修をただのビジネスマナーのインプットで終わりにせずに、AI時代に戦力になる新入社員を育てる研修を実施しています。
単なるスキルの伝授にとどまらず、プロのコーチング技術を用いて一人ひとりの「Will Can Must」を引き出し、主体的なキャリア形成と組織への貢献を両立させるプログラムをご用意しております。
「自ら考え、行動できる新入社員を育てたい」「現場配属後の定着率と早期戦力化を実現したい」といった課題をお持ちのご担当者様は、ご興味がありましたらぜひお気軽にお問合せください。個人と組織が共に成長し続ける未来を、私たちが強力にサポートいたします。
どのような若手社員を育てていきたいか、御社の「Must」をぜひ一度お聞かせいただけますでしょうか?




