部下がブレイクスルーする目標設定。「差分を埋める」から「可能性を引き出す」へ

目標設定で部下を育成する

期初の目標設定の面談、部下は本当にワクワクした顔で部屋を出ていっていますか?

部下の目標設定は、多くの管理職が「ちゃんとやっている」仕事です。数字も期限も決めた。面談もした。それなのに、こんなことが起きていないでしょうか。

  • 面談では「頑張ります」と言っていたのに、翌週になっても何も変わっていない
  • 出てくる目標が、だいたい「去年より少し上」で、本人も達成できそうな範囲に収まっている
  • 期末になって、お互いに「そういえば、こんな目標だったね」と思い出す

そして「次は期初からしっかりすり合わせよう」と反省し、また同じことを繰り返す。これは部下のやる気の問題でも、上司の面談の腕の問題でもありません。目標設定の目的そのものが、いつの間にか「育成」ではなく「査定」になっているのです。

私は会議変革コーチ・社外CHROとして、コーチングを会議・目標設定・1on1に組み込むご支援をしています。組織開発では必ず会議にオブザーブ(同席して観察)するのですが、会議を見ていると、その組織の目標が「守り」なのか「挑戦」なのかが、驚くほどはっきり出てきます。今回は、部下がブレイクスルー(今の延長線上を突き抜けること)する目標設定の考え方と、面談でそのまま使える問いをお伝えします。

この記事でわかること

  • 目標設定が「査定」になると、部下が安全な目標を選ぶ理由
  • 「差分を埋める」発想が、部下の可能性に天井をつくってしまう仕組み
  • 高いゴールと評価の基準を分けて握る、目標の置き方
  • 強みと価値観から、部下が走りたくなる目標をつくる面談の問い
目次

目標設定の目的を「査定」から「育成」に変える

先に結論をお伝えします。部下の目標設定で最初に考えるべきなのは、「売上をいくらにするか」でも「いつまでに何をやるか」でもありません。「この目標を通じて、この人の可能性をすべて引き出せたとしたら、どこまでいけるのか」です。ゴールが先にあるのではなく、その人の可能性が先にあって、目標はその後に来ます。

SMARTの法則は、よくできた「管理」の道具

多くの会社では、目標設定といえばまず数字を決め、最後にSMARTの法則で形を整えます。Specific(具体的)、Measurable(測定できる)、Achievable(達成できる)、Relevant(関連している)、Time-bound(期限がある)。この考え方は、1981年にジョージ・T・ドランが経営誌に寄せた記事が最初期の形とされています(Doran, 1981)。ちなみに当初の「A」と「R」は、Assignable(担当者を決められる)とRealistic(現実的)でした。

目標を管理する方法としては、本当によくできています。私もSMARTの法則を否定するつもりはありません。ただ、一つだけ大きな落とし穴があります。目標がきれいに書けたことと、その人が動きたくなるかどうかは、まったく別の話なのです。

評価がかかると、人は安全な目標を選ぶ

少し想像してみてください。あなたが部下で、会社から「この目標を達成できなければ評価が下がります」と言われたうえで、次の2つから選べと言われたら、どちらを選びますか?

  • 頑張って工夫しないと届かない、挑戦的な目標
  • 確実に達成できそうな、安全な目標

多くの人は、安全なほうを選びたくなるはずです。これは挑戦心がないからではありません。評価制度の中で考えれば、むしろとても合理的な判断です。つまり私たちは「もっとチャレンジしてほしい」と言いながら、目標管理の仕組みそのもので「失敗しないほうが得ですよ」というゲームをつくってしまっていることがあるのです。

だから、部下が目標にワクワクしていないときに「もっと主体性を持って」と本人だけを責めても、なかなか変わりません。先に変えるべきなのは、目標設定に対する上司側の考え方です。

コーチ

コーチングでは、最初に出てきた目標をそのまま受け取らないことがよくあります。「もし評価を気にしなくてよかったら、どこを目指したい?」と一度だけ聞いてみる。安全な目標の一段奥に、本人が本当に見たい景色が隠れていることが多いんです。

「差分を埋める」思考が、部下の天井をつくる

目標の目的を変えたら、次はプロセスの捉え方です。100点をゴールにすると、どうしても今の自分と100点との差を見ますよね。今の実力が70点なら、残りの30点は何が足りないのか。そのためにどんなスキルを身につけ、何を改善すればいいのか。

こうして目標設定も育成も、だんだん「不足しているものを見つけて、差分を埋める作業」になっていきます。正しそうに見えるのですが、正直、あまり面白くありません。自分のできていないところを一つずつ埋めていくので、悪いところ探しに近いのです。

ゴール・現在地・ギャップというフレームは、わかりやすい反面、その人の可能性に、ある意味で天井をつくってしまいます。100点に届いたら、そこで終わり。もったいないですよね。

差分を埋める目標設定ブレイクスルーさせる目標設定
出発点今の実力と100点の差可能性を全部出したら届く所
面談の中心足りないこと・直すこと勝ちパターンと伸ばし方
部下の問い何が足りないかどうすれば勝てるか
目標の目的査定育成

みなさんの職場の目標面談は、表の左と右、どちらの会話が多いでしょうか?

「可能性を全開放したらどこまでいけるか」からゴールを置く

では、育成のための目標はどう置けばいいのか。答えは、ざわつくくらいの高さに置くことです。「頑張れば普通に届きそう」「この等級ならこのくらい」ではなく、今までのやり方を続けていたら届かない。やり方そのものを変えたり、新しい挑戦をしたりしないと到達できない。でも、もし本当にそこまで行けたら「これは面白いな」と思える。そんなゴールです。

評価上の100点と、挑戦のゴールを分けて握る

もちろん、そんなに高い目標を置けば達成率は下がります。だからこそ、大きな挑戦のゴールと、役割として求められる評価上の100点を混同しないことが大切です。面談では、こんなふうに話します。

「このラインまでできたら、今期はA判定だよね。そこはちゃんと握っておこう。でも、せっかく半年やるなら、ここで終わったらちょっとつまらなくない?」

そのうえで、その先の景色を一緒に見にいきます。120点まで行ったら、今まで任されなかった仕事ができるかもしれない。130点なら、周りから見た役割そのものが変わっているかもしれない。150点まで行けたら、今の自分では想像できないステージに立っているかもしれない。「達成しなかったらダメ」というプレッシャーではなく、「そこまで行けたら、どんな景色が見られるんだろう」という未来への好奇心をつくるのです。

高いゴールが成果を上げることは、研究でも示されている

「高すぎる目標は、かえってやる気をなくすのでは?」と心配になる方もいると思います。目標設定の研究で知られる心理学者のエドウィン・ロックとゲイリー・レイサムは、35年分の研究をまとめた論文で、具体的で難しい目標のほうが、「ベストを尽くそう」というあいまいな目標や簡単な目標よりも高い成果につながることを示しています(Locke & Latham, 2002)。ただし前提は、本人がその目標に本気でコミットしていること。押しつけられた高い目標では、この効果は出にくくなります。

つまり大事なのは、目標の「高さ」と、本人が「行きたい」と思えるかどうかのセットです。その「行きたい」をどうつくるかは、この後の強みと価値観の章でお話しします。

上司こそ、誰よりワクワクする目標を掲げる

そして、これは部下にだけ求めないでください。上司自身が、チームの中で誰よりも挑戦的な目標を掲げてほしいのです。上司が本気で「今期、ここまで行きたいと思っている」と話すと、最初は「いや、さすがに無理じゃないですか」と言われるかもしれません。でも熱量を持って話し続けると、「この人がここまで本気なら、もしかすると行けるかもしれない」という空気が、少しずつチームに生まれてきます。

管理職のみなさん、ご自身の目標が「消化試合」になっていませんか? もしそうなら、まずはご自身がワクワクしてください。話はいつでも聞きますので。

高いゴールは、部下に「新しい勝ち方」を考えさせる

150点のように、今の延長線上では簡単に届かないゴールを置くと、何が起きるか。差分を一つずつ埋めるやり方では間に合わないので、どこかでブレイクスルーを起こさないといけなくなります。すると、部下の頭の中の問いが変わります。

「今の自分には、何が足りないんだろう」

こう考えていた人が、こう考え始めるのです。

「このゴールを実現するために、今持っている材料をどう使えば勝てるだろう」

人を増やせないなら、今いるメンバーの力をどう最大化するか。予算が限られているなら、今ある顧客基盤やノウハウをどう使えば、これまでと違う成果につながるか。目標設定が「不足を埋める作業」から、今あるリソースで新しい勝ち方を発明する作業に変わります。

本人が「じゃあ、どうすればできるんだろう」と考えざるを得なくなる。その意味でも、高いゴールは自律性を引き出します。そして、その発明にいちばん使える材料が、すでにその人が持っている強みなのです。

強みは「得意なこと」ではなく「勝ちパターン」

ここでいう強みとは、単なる得意なことではありません。その人なりの、再現できる勝ち方のことです。

「コミュニケーションが強みです」は、まだ浅い

たとえば営業の部下に強みを聞いて、「コミュニケーションです」と返ってきたとします。これは、まだかなり浅い。潮干狩りができてしまうくらいの浅さです。

大事なのは、その人がうまくいった具体的な仕事を一緒に振り返ることです。

「あの案件は、なぜ成果が出たんだと思う? 最初の商談で、何をしていた?」

話していくうちに、「最初の商談では売ろうとせず、お客様がなぜその事業をやっているのかをずっと聞いていた」という話が出てきたとします。そうなると、もう「コミュニケーションが得意」という話ではありません。この人は、相手の背景を理解して信頼関係をつくり、その後の提案を通りやすくするという勝ち方をしているのかもしれない。別の案件でも同じことが起きているなら、それはかなり再現性のある強みです。

「直そう」ではなく「この力を、もっと大きな仕事で使おう」

勝ちパターンが見えると、面談の会話が変わります。「あなたはここが足りないから直しましょう」ではなく、「あなたはこういうときに成果が出ているから、今期はこの力をもっと大きな仕事で使ってみよう」という話ができるようになるのです。育成とは、弱点を全部平均点にすることではありません。その人の力がいちばん事業の成果につながる場所を見つけて、そこで本人のスイッチが入る状態をつくることです。強みを見つける方法については、ストレングスファインダーをキャリア開発に活かす記事も参考になると思います。

コーチ

「あなたの強みは?」と聞かれて、すぐに答えられる人は実はあまりいません。だから聞くのは強みそのものではなく、うまくいった具体的な場面。事実を一緒にたどっていくと、本人も気づいていなかった勝ちパターンが、ふっと言葉になる瞬間があるんですよね。

価値観をつなぐと、目標は「自分ごと」になる

ただ、強みを活かせる仕事を任せれば、必ず熱中するわけではありません。強みが「勝ち方」だとしたら、もう一つ必要なのは「走りたくなる理由」です。それが価値観です。

たとえば、大きな仕事を雑に振られると、なぜかすごくやる気になる部下がいたとします。上司からすると「この人は裁量があるのが好きなんだな」と理解したくなりますが、もう一段深く見たほうがいい。なぜ任せっぱなしのほうが嬉しいのでしょうか。

  • 自分を信頼して任せてもらえたことが嬉しいのかもしれない
  • 自分ならではの考えがあって、自分らしさを出したいのかもしれない
  • 難しい仕事をやり切った後の成長実感が、何より嬉しいのかもしれない

見た目の行動は同じでも、その人を動かしている理由はまったく違います。そして価値観がわかると、会社の目標と本人のモチベーションをつなげられるようになります。150点の目標を実現したときの世界に、部下の価値観を重ねてあげるのです。

「この目標を達成したら、あなたが大事にしている〇〇は、どう満たされるだろう」。そう言葉にできると、仕事の意味づけが変わります。忙しさの中で忘れかけていた、自分がこの仕事をしている理由を思い出せる。だから、長く力を発揮し続けられるのです。

目標設定の面談でそのまま使える問い

ここまでの流れを、面談の順番に並べるとこうなります。全部を一回の面談でやる必要はありません。

段階ねらい問いの例
① 評価の線を握る安心して挑戦できる土台「A判定のラインはここ、で合ってる?」
② 景色を広げる天井を外す「全部うまくいったら、どこまで行けそう?」
③ 勝ちパターン強みを言葉にする「いちばん手応えがあった仕事は?なぜ?」
④ 価値観走りたくなる理由「その仕事の、何が嬉しかった?」
⑤ つなぐ目標を自分ごとに「達成したら、何が手に入りそう?」

とくに②の問いは、最初は笑われるくらいでちょうどいいです。部下が「いや、それは無理ですよ」と笑ったら、すかさずこう返してみてください。

「無理かどうかは一回置いておこう。もし行けたとしたら、何が起きていたと思う?」

「無理」の理由を話すモードから、「どうすれば」を考えるモードに切り替わります。ここで出てきた答えが、そのまま③の勝ちパターン探しの入口になります。

明日から試せること

次の目標面談を待たなくても、できることがあります。まずはこの3つから始めてみてください。

  1. 部下の今期の目標を見直し、「評価上の100点」と「挑戦のゴール」が分かれているか確認する
  2. 次の1on1で「いちばん手応えがあった仕事は? なぜうまくいったと思う?」と聞き、勝ちパターンを一つ言葉にする
  3. 自分自身の今期の目標を、チームの誰よりワクワクするものに書き直して、チームに話してみる

頼りにしているエースほど、進捗確認ではなく「次の挑戦」の話をする時間が必要です。その時間をどう確保するかは、エース社員が辞める前兆についての記事でも書いています。

よくある質問

会社の人事制度があるので、勝手に高い目標を設定できません。

評価に使う目標は、制度のとおりで大丈夫です。変えるのは、その外側に「挑戦のゴール」を置くことです。評価の線はきちんと握ったうえで、その先の景色を一緒に描く。これなら制度を変えなくても、チームの中で挑戦を増やせます。経営者や人事責任者の方は、挑戦するほど評価が不利になる仕組みになっていないかを、一度見直してみる価値があります。

高い目標を置くと、部下がプレッシャーでつぶれませんか?

つぶれるのは、高い目標が「達成しないとダメな線」になっているときです。評価上の100点と挑戦のゴールを分けておけば、150点に届かなくても失敗ではありません。むしろ、そこを目指したからこそ届いた120点が残ります。大切なのは、本人が「行ってみたい」と思えているかどうかです。

数字の目標やSMARTの法則は、もう使わないほうがいいのでしょうか?

使ってください。数字や期限は、進み具合を確かめるためにとても役に立ちます。手放してほしいのは、「客観的に正しい目標をつくれば、人は動く」という思い込みのほうです。形を整える前に、その人の可能性と動機から目標を考える。順番を入れ替えるだけで、同じ数字でも意味が変わります。

動画でも解説しています

この記事の内容は、YouTubeでもお話ししています。面談での声のかけ方は、話し方の温度感も含めて聞いていただくとイメージしやすいと思います。

まとめ:目標は「足りないところ探し」ではなく「可能性の引き出し方」

目標設定が査定の道具になると、部下は合理的に安全な目標を選びます。差分を埋める発想は、わかりやすい反面、その人の可能性に天井をつくってしまう。だからこそ、評価の線はきちんと握ったうえで、ざわつくくらい高いゴールを置き、本人の勝ちパターンと価値観をそこにつなげていく。目標設定は、年に数回の儀式ではなく、部下の可能性を引き出す育成の時間なのです。

みなさんのチームで、今期いちばん化けそうなのは誰でしょうか? その人が全部の力を出し切ったら、どこまで行けそうですか? 次の面談では、ぜひその問いから始めてみてください。

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