優秀なプレイングマネージャーの下で、なぜチームは疲弊するのか。Missionと「余白」で成果を積み上げる

プレイングマネージャーがチームで成果を出す方法

自分が商談に入れば受注できる。トラブルが起きても、自分なら片づけられる。それなのに、チームの成果はなぜか伸びない。みなさんのチームでも、心当たりはありませんか?

プレイングマネージャーとして結果を出してきた人ほど、チームを任されたときに、こんな壁にぶつかります。

  • 良かれと思って始めた施策が、気づけば現場の「追加業務」になっている
  • 新しい取り組みを提案すると、メンバーの顔に「また何か始まった」と書いてある
  • 毎期なんとか目標は達成するけれど、チームはいつも疲れていて、次の手が打てない

これは、あなただけの悩みではありません。産業能率大学総合研究所の調査では、上場企業の課長の98.5%、部長でも95.8%がプレイングマネジャーとして働いていました(産業能率大学 総合研究所, 2019)。プレイヤーとして成果を出しながらチームも率いるのは、もはや管理職の「標準仕様」なのです。

私は会議変革コーチ・社外CHROとして、会議・目標設定・1on1を起点にした組織づくりをご支援しています。支援では必ず会議にオブザーブ(同席して観察)するのですが、優秀なリーダーの下でチームが疲れていく場面には、はっきりした共通点があります。今回は、その原因と、チームの成果を積み上げていくための2つの打ち手をお伝えします。

この記事でわかること

  • 優秀なプレイングマネージャーの下で、チームが疲弊していく仕組み
  • 「思いつき施策」が、熱意とは裏腹に現場を疲れさせる理由
  • チームのMission(存在理由)を、日々の判断に使える言葉にする方法
  • 一度成果を上振れさせて「余白」をつくり、成果を複利のように積み上げる進め方
目次

リーダーの仕事は「向かう先」と「動ける余白」をつくること

先に結論をお伝えします。チームを任されたリーダーが押さえるべきことは、2つだけです。チームのMissionをつくること。そして、一度、期待を上回る成果を出して、次の挑戦に使える余白をつくること。

KPIを徹底しましょう、1on1をやりましょう、という話ではありません。どちらも大事ですが、その手前にある、もっと根っこの話です。チームがどこに向かうのかを決め、そこへ向かって動ける余裕まで用意する。そこまでがリーダーの仕事なのです。

なぜこの2つなのか。まずは、優秀な人がリーダーになったときに何が起きているのかから見ていきます。

エースが監督になると起きること

プレイングマネージャーがチームのトップになったとき、いちばんつまずきやすいのは、自分が成果を出してきたやり方を、そのままチームにも当てはめてしまうことです。

点を取る力と、チームを勝たせる力は別の筋肉

サッカーでいえば、フィールドのエースが監督になるようなものです。自分でゴールを決める力があっても、選手を育て、相手に合わせて采配を変え、チーム全体を勝利へ導くには、まったく別の筋肉を使います。

現場で活躍してきた人には、たくさんの成功体験があります。ところが、自分がどうやって判断しているのかを人に伝え、チームとして再現できるようにする経験は、意外と積んでいないことが多い。だから部下が詰まると自分が出る。重要な案件は自分で持つ。そのほうが早いし、確実だからです。

先ほどの産業能率大学の課長調査でも、プレイングマネジャーの約6割が「プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障がある」と答えています(産業能率大学 総合研究所, 2019)。自分で動ける人ほど、チームを動かす時間が削られていくのです。課長から部長へ上がるときに何を手放すべきかは、「課長」で終わる人、「部長・役員」になる人の違いの記事でも詳しく書いています。

リーダーは一生懸命。だからこそ厄介

ここで誤解してほしくないのは、こうしたリーダーは決してサボっているわけではない、ということです。むしろチームのために誰よりも一生懸命です。ただ、チームが向かう先と、そこに集中する余裕がないままだと、その熱意がメンバーを疲れさせてしまう。その代表例が、次にお話しする「思いつき施策」です。

「思いつき施策」が、現場を静かに疲れさせる

思いつき施策とは、リーダーが自分の経験から「これ、やったら良さそうだな」と判断して、次々に始めてしまう取り組みのことです。私が現場で特によく目にするのが、これが少しずつ増えていく状態です。

「今の話、記事にしましょう」は正しいのか

私が関わってきた人材サービス企業で、実際にあった話です。クライアントへのヒアリングで良い話が聞けると、リーダーがその場でこう言うのです。

「今の話、すごくいいですね。動画や記事にして、ホームページに載せましょう。いろんな形で使いましょう」

せっかく聞けた話ですし、問い合わせが増えるかもしれない。なんとなく、やったほうが良さそうに思えますよね。ただ、ここで考えたいのは、その発信が、チームの果たすべきMissionにどうつながるのかということです。

たとえば、いまの課題が「問い合わせは来るのに、その後の提案がお客様の期待に応えられていない」ことだとしたら、インタビューで得た気づきは、まず提案の改善に使うという判断もあります。発信を増やすべきかどうかは、何を実現したいのかによって変わるのです。

「最近メンバー同士の交流が少ないから、シャッフルランチをしよう」も同じです。どんなチームにしたくて、そのためにどんな関係が必要なのかまでつながっていれば、意味のある施策になります。でも、そこを考えずに始めると、忙しい現場への追加業務になってしまいます。

ポジティブな施策ほど、部下は反対できない

思いつき施策がやっかいなのは、たいてい前向きな空気をまとっていることです。上司が目を輝かせて「これ、面白くない?」と言ったとき、「いいですね」以外の返事をひねり出すのは、なかなかの難題です。私なら、たぶん「いいですね」と言いながら、頭の中で今週の予定表を眺めています。

こうして施策が積み重なると、チームの中ではこんな流れが起きていきます。

  1. メンバーが本来の仕事に使う時間が削られ、どれも中途半端になる
  2. 成果が伸びないので、リーダーがさらに新しい施策を考える
  3. 現場は「また何か始まった」と受け止めるようになる
  4. やがて、メンバーから改善の提案さえ出なくなる

4つ目まで来ると、チームはかなり静かになります。会議でも、リーダーばかりが話している。施策の数が増えるほど、チームの考える力が減っていくのです。

コーチ

コーチングの場で「新しく何を始めますか?」と聞くと、アイデアはいくらでも出てきます。でも、本当に効くのは「何をやめますか?」のほうなんです。足すのは簡単。引くには、自分たちが何のためにいるのかという軸が要るんですよね。

チームのMissionをつくり、判断の軸にする

この流れを変えるために、最初に必要なのがチームのMissionです。Missionとは、そのチームが誰に、どんな価値を届けるために存在しているのかを言葉にしたものです。

会社のMVVだけでは、今日の判断は決まらない

「Missionなら、うちの会社にもありますよ」と思った方もいるかもしれません。会社のMVV、つまりMission・Vision・Valueですね。実は、チームという単位でもこれを言葉にする必要があります。

会社が大きな理念を掲げていても、現場のメンバーが、今日の商談やお客様への対応で何を優先すればいいのかまで、自然にわかるわけではありません。会社の目指すものを、自分たちの仕事に結びつけること。ここにリーダーの役割があります。

「このチームが明日なくなったら、誰が困る?」から始める

Missionを考えるときは、いきなり立派な言葉をひねり出そうとしなくて大丈夫です。まずはメンバーと、この問いについて話してみてください。

「このチームが明日なくなったら、誰が、どんなことで困るだろう?」

答えを掘り下げていくと、自分たちが誰にどんな価値を届けているのかが見えてきます。たとえば営業チームなら、「お客様の課題を解決し、その先の事業を加速させる」というMissionが考えられます。ここまで言葉になると、売上目標を追うときにも「この提案は、本当にお客様の事業に役立つのか」という視点が自然に生まれます。

そのMissionを果たした先に、どんなチームになっていたいのかを描いたものがVision。その未来に近づくために、日々大切にする姿勢や行動がValueです。3つがつながると、目指す方向が、実際の仕事の進め方にまで落ちてきます。

身近な言葉でいい。「定時で帰る生産性最強のチーム」

過去に実際のチームで作った、身近なところから始めたMVVを紹介します。

言葉込めた意味
Mission定時で帰る生産性最強のチーム限られた時間で成果を出す
Visionハッピーマンデー月曜日が楽しみなチーム
Valueカレンダーの開示仕事と時間の使い方を見せ合う

このチームでは、業務も休憩も含めてカレンダーに登録し、お互いに見られるようにしました。すると、そもそも予定が定時までに収まっていないし、翌日や翌週に持ち越さないと終わらない仕事もある、という現実が見えてきたのです。

「定時で帰れるチームにしたいのに、この予定では無理だよね」。目指す状態と現実の差がわかると、メンバーが自分たちで仕事の進め方を工夫し始めます。そこから生産性と成果の好循環につながっていきました。

つくった言葉は、会議で使ってはじめて効く

大事なのは、つくった言葉を実際の判断に使うことです。額に入れて飾っておくだけでは、ただの標語です。先ほどのインタビューの話なら、会議でこう問いかけてみてください。

「この発信は、うちのMissionの実現にどう効くんだろう?」

つながりを説明できれば進めればいいし、他の仕事のほうが大事だとわかれば、そちらに時間を使えます。リーダーだけが頭の中に答えを持っていると、メンバーは毎回上司に聞くしかありません。でも共通のMissionがあれば、メンバーが自分たちで優先順位を考えられるようになる。思いつき施策の歯止めにもなるわけです。

一度、成果を上振れさせて「余白」をつくる

ただ、方向性が決まっても「目の前の仕事で手いっぱいで、変えたくても変えられない」というチームはありますよね。そこで必要になるのが、2つ目の打ち手です。

毎期、目標達成のためにチームの力を使い切って、次の期にはまたゼロから頑張る。これを繰り返していると、仕事のやり方を改善したり、新しいことを試したりする時間が取れません。成果は出ていても、次の成果を出しやすくする力が、チームに積み上がっていかないのです。

余白とは、次の挑戦に使える「時間」と「頭の余裕」

だからリーダーが意図的に、一度、期待を上回る成果を出せる状態をつくります。ここでいう余白とは、次の改善や挑戦に使える時間と、そこに頭を使える余裕のことです。

注意したいのは、残業を増やして数字だけ上振れさせても意味がない、ということです。全員が疲れ切っていたら、次にはつながりません。目標を超える成果を出しながら、チームに余力が残るように、達成の仕方まで設計する必要があります。

最初の成果は、リーダーが手伝っていい

では、最初の成果をどうつくるのか。ここは、リーダー自身が仕事を手伝っていいのです。

「え、さっきプレイングマネージャーの話で、自分でやりすぎるなと言っていませんでしたか?」と思われたかもしれません。違いは、リーダーが手伝った後、チームに何が残るかです。

穴埋めの手伝い余白をつくる手伝い
入るタイミング苦しくなってから目標を決める段階から
リーダーの役割代わりに数字をつくる障害を取り除く
終わった後次の期も依存が続くやり方がチームに残る

今期も来期もリーダーが穴埋めをする前提なら、依存は続きます。だから目標を決める段階から、メンバーと達成までの道筋を一緒に考えてください。「この目標でお願いします」と渡して、苦しくなった頃に助けに入るのでは、途中の手戻りに時間を取られてしまいます。最初に「どこに力を集中すれば成果が出そうか」を話し合い、メンバーだけでは崩しにくい障害に、リーダーの経験と力を使うのです。

営業チームなら、リーダーが重要な商談を支援し、そのときの判断や提案の組み立て方をメンバーと共有する。成果につながったやり方がチームに残れば、その支援は、次に自分たちで成果を出すための材料になります。

余白を次の挑戦に回すと、成果は複利で積み上がる

そして、ここからがいちばん大事なところです。せっかく成果が出て余裕ができたのに、ついやってしまう一言があります。

「空いているなら、これもお願いできる?」

これで、つくったばかりの余白はあっという間に消えます。余白は、放っておくと必ず誰かの「ついで仕事」で埋まります。自然には残りません。だから、こう決めておくのです。

「浮いた時間のうち、毎週この2時間は提案の改善に使おう。カレンダーにも入れておこう」

期の早い段階で目標を超える成果が出て、余力が残ったなら、その一部を次の成果につながる改善に確保する。何に使うのかを決め、必要なら自分の上司とも合意して、実際の予定に入れておく。ここまでがリーダーの仕事です。

改善で浮いた時間が、次の挑戦を生む

先ほどの営業チームなら、その時間を使って提案の準備や確認の手順を整えられます。手戻りが減れば、今度はその分の時間で、お客様の課題により深く応える提案を試せる。その挑戦でうまくいったやり方を共有すれば、他のメンバーも次の商談に活かせます。

複利とは、生まれた利益を再投資して、次の利益につなげる考え方ですよね。チームも同じです。出した成果をその期だけで終わらせず、そこから生まれた余白を、次の成果を生む力に変えていく。こうして、成果が少しずつ積み上がるチームになっていきます。

何に投資するかを決める基準が、Mission

ここで、1つ目の打ち手とつながります。余白を何に使うかを決める基準が、チームのMissionです。Missionに照らして次の挑戦を選び、その挑戦から得たやり方や経験をチームに残していく。そうすれば、リーダーが最初に手伝った力が、チーム全体の力に変わっていきます。

逆に、Missionがないまま余白だけできると、そこはまた思いつき施策の置き場所になってしまいます。2つはセットで初めて効くのです。

コーチ

余白の使い道は、リーダーが一人で決めなくていいんです。「空いた時間、何に使ったら一番効きそう?」とメンバーに聞いてみてください。自分たちで選んだ挑戦は、上から渡された施策とは熱量がまるで違います。そこから、チームの主体性が戻ってくるんですよね。

明日から試せること

大きな仕組みを変えなくても、始められることがあります。まずはこの3つから試してみてください。

  1. この3か月で自分が始めた施策を書き出し、それぞれ「チームのMissionにどうつながるか」を一言で説明できるか確かめる
  2. 次のチーム会議で「このチームが明日なくなったら、誰が、どんなことで困るだろう?」と問いかけ、メンバーの答えを集める
  3. 今期の目標について、メンバーと「どこに力を集中すれば成果が出そうか」「そこで浮いた時間を何に使うか」までを話し合う

仕事がエースに集まりすぎると、チームが疲れるだけでなく、そのエース自身が離れていくこともあります。その前兆については、エース社員が辞める前兆についての記事もあわせてご覧ください。

よくある質問

自分もプレイヤーとして数字を持っています。現場から離れるべきでしょうか?

離れなくて大丈夫です。問題はプレイすること自体ではなく、手伝った後にチームに何も残らないことです。自分が入る商談や案件では、判断の理由や提案の組み立て方をメンバーと共有する。そうすれば、プレイヤーとしての時間が、チームを育てる時間にもなります。

チームのMissionは、リーダーが決めて伝えればいいのでは?

たたき台はリーダーがつくってかまいません。ただ、言葉を決める過程にはメンバーを巻き込んでください。日々の判断に使うのはメンバー自身です。自分たちで話し合って決めた言葉のほうが、会議で「それってMissionにつながる?」と自然に使われるようになります。

余白をつくると、上から「余裕があるなら目標を上げろ」と言われそうです。

だからこそ、余白の使い道を先に決め、自分の上司と合意しておくことが大切です。「この時間を使って提案の手順を改善し、来期の成果につなげます」と、何に投資するのかを言葉にしておけば、遊んでいる時間ではなく、次の成果への投資だと理解してもらいやすくなります。

動画でも解説しています

「上司のひらめきは、部下のため息だった」という少し耳の痛いテーマで、YouTubeでもお話ししています。思いつき施策が生まれる場面は、話を聞いていただくとより具体的にイメージできると思います。

まとめ:熱意を、チームが積み上がる仕組みに変える

優秀なプレイングマネージャーの下でチームが疲れるのは、リーダーの熱意が足りないからではありません。向かう先と、そこに集中する余裕がないまま、良かれと思った施策が積み重なっていくからです。だからこそ、まずチームのMissionを言葉にして、何に力を使うのかを決める。そして一度、期待を上回る成果を出すためにリーダーが力を貸し、そこでつくった余白を、Missionに向かう次の挑戦へ回していく。この2つをつなげることが、自分史上最高のチームへの近道なのです。

みなさんのチームなら、つくった余白をどんな挑戦に使いたいでしょうか? 次のチーム会議では、ぜひ「自分たちは、誰にどんな価値を届けるチームなのか」から話してみてください。

プレイングマネージャーから、チームを動かすリーダーへ。コーチングフォワードでは、次世代リーダー・管理職育成の研修をご提供しています。

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